結論:前払い分は給与所得、据え置いた過去分は退職所得
国税庁の質疑応答事例(所得税)は、退職金前払い制度に移行する場合の一時金の所得区分を、次のとおり示しています。
- 毎月の給与に上乗せして分割で支給する退職金相当額は、退職により一時に支払を受ける給与ではないため、退職所得ではなく給与所得になります。
- 移行日前の過去の勤務期間に係る一時金を、移行時に打切支給して引き続き勤務する使用人に払う場合も、給与所得(所得税法第28条第1項)です。
- 移行日前の過去の勤務期間に係る一時金を、実際に退職するまで据え置いて支給する場合は、その一時金は退職所得になります。
給与所得になる理由
国税庁の回答は、理由を3点あげています。
- 前払い制度で分割支給される退職金相当額は、退職により一時に支払を受ける給与ではないので、退職所得には当たらない。
- 前払い制度への移行は「新たな退職給与規程の制定」とはいえない。このため、新規程の制定前の勤続期間に係る退職手当等を退職所得として扱う所得税基本通達30-2(1)は使えない。
- 移行日前の過去の勤務期間に係る一時金は、実際に退職するまで据え置いて支給することもできる。そのため、移行時に精算する必要があるとは認められない。
退職所得になる場合との税負担の違い
退職所得は、国税庁タックスアンサーNo.1420によると、次の式で計算します。
(収入金額 − 退職所得控除額)× 1/2 = 退職所得の金額
退職所得控除額は、勤続20年以下なら「40万円 × 勤続年数」(80万円に満たない場合は80万円)です。勤続20年なら800万円になります。退職所得は、原則として他の所得と分離して所得税額を計算します。
| 項目 | 給与所得になる前払い分 | 退職所得になる据え置き分 |
|---|---|---|
| 退職所得控除 | 使えない | 使える |
| 2分の1の計算 | ない | ある(短期退職手当等などの例外あり) |
| 他の所得との関係 | 給与所得として、ほかの所得と合わせて計算 | 原則として分離して計算 |
給与所得になる前払い分には、退職所得控除も2分の1の計算も使えません。毎月の給与と同じ扱いで、所得税と住民税の対象です。前払い制度を選ぶと、同じ額を退職時に受け取る場合より税負担が重くなる可能性があります。
確認しておくこと
- 国税庁の事例は、照会に書かれた事実関係を前提にした一般的な回答です。会社の制度の作りによって、課税関係が異なることがあります。
- 自分の会社の前払い制度が、毎月の給与に上乗せする形か、移行時に過去分を払う形か、退職まで据え置く形かは、退職金規程や会社の説明資料で確認してください。
- 個別の税務判断は、税務署または税理士に確認してください。
退職金を受け取る場合の手取りを試算する
退職時にまとめて受け取る場合の税引後の手取りは、手取り計算で試算できます。退職所得控除の仕組みは退職所得控除の早見表で確認できます。
国税庁 質疑応答事例(所得税)「企業内退職金制度の廃止による打切支給の退職手当等として支払われる給与(いわゆる退職金前払い制度へ移行する目的で廃止する場合)」(令和7年8月1日現在の法令・通達等に基づく)と、タックスアンサーNo.1420(確認日2026-10-08)にもとづく一般的な制度の紹介です。個別の税務相談や申告の代行は行いません。