結論: 退職手当の定めは「定めをする会社」だけが明示し、就業規則に書く
退職金(法令の言葉では退職手当)について、会社に定めを置く義務を課す条文は、ここで確かめた範囲にはありません。条文が決めているのは、会社が退職手当の定めをする場合に、何を労働者へ明示し、就業規則に何を書くかです。
- 入社時の明示: 退職手当の定めをする場合は、対象になる労働者の範囲、決定・計算・支払の方法、支払の時期を明示する。
- 就業規則: 常時10人以上の労働者を使う会社は就業規則を作る。退職手当の定めをする場合は、同じ項目を書く。
- 定めが無い会社: 明示も就業規則の記載も求められる対象にならない。
入社時に明示される事項(労働基準法第15条、施行規則第5条)
労働基準法第15条第1項は、労働契約を結ぶときに会社が賃金や労働時間などの労働条件を明示するよう定めています。何を明示するかは施行規則第5条第1項に列挙されていて、退職に関するものは次の2つです。
| 事項 | 内容(施行規則第5条第1項) | 定めが無い場合 |
|---|---|---|
| 退職に関する事項 | 解雇の事由を含む(第4号) | 明示が必要 |
| 退職手当 | 定めが適用される労働者の範囲、決定・計算・支払の方法、支払の時期(第4号の2) | 定めをしない場合は明示不要 |
第4号の2から第11号までの事項は、会社がそれらの定めをしない場合には明示の対象になりません。退職手当はこのグループに入っています。
書面で渡される事項と、退職手当の違い
明示の方法にも決まりがあります。施行規則第5条第3項は、書面で明らかにする事項を、同条第1項の第1号から第4号まで(昇給に関する事項を除く)としています。労働者が希望すれば、ファクシミリや、書面に出力できる電子メールなどでも可能です。
退職手当の定めは第4号の2なので、この書面交付が必要な事項には含まれていません。だからといって明示が不要になるわけではありません。会社が定めをしているなら明示する義務はあります。労働条件通知書に退職金の記載が無いときは、就業規則や退職金規程で確認します。
労働基準法第15条第2項は、明示された労働条件が事実と相違する場合、労働者は即時に労働契約を解除できると定めています。
就業規則に書かれる事項(労働基準法第89条)
第89条は、常時10人以上の労働者を使う会社に、就業規則を作って行政官庁(労働基準監督署)へ届け出るよう求めています。退職金に関する記載は第3号の2です。
- 退職手当の定めをする場合は、適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項を書く。
- 第3号の「退職に関する事項(解雇の事由を含む)」は、定めの有無にかかわらず書く。
就業規則は、労働者に周知することも会社に義務づけられています(第106条)。社内の見やすい場所への掲示や備え付け、書面の交付などの方法があります。10人未満の会社は就業規則の作成義務の対象外ですが、入社時の明示(第15条)は会社の人数にかかわらず対象です。
退職金の定めが無い会社では
退職手当の定めをするかどうか自体は条文では義務づけられていないため、定めの無い会社は、就業規則にも退職金の項目が無く、労働条件通知書にも載りません。制度がある企業の割合は、規模別・業種別の表を載せた別のページで確認できます。令和5年の調査では、制度がある企業は74.9%、ない企業は24.8%でした。
入社前や転職の検討中は、次の点を会社に確認します。
- 退職金の定めがあるか(就業規則や退職金規程に載っているか)
- 自分の雇用形態が、定めの適用される労働者の範囲に入っているか
- 額の計算方法と支払の時期はどう書かれているか
規程を確認したあとの進め方
定めがある場合は、規程の読み方を退職金規程の読み方で確認し、出た額を相場と並べて見ます。受け取る額の手取りは手取り計算で試算できます。規程の解釈や個別の権利関係の判断が必要なときは、労働基準監督署や社会保険労務士・弁護士などの専門家にご相談ください。
よくある質問
入社するとき、退職金の定めは労働条件通知書に書かれますか。
会社が退職手当の定めをしている場合は、適用される労働者の範囲、決定・計算・支払の方法、支払の時期を明示しなければなりません(施行規則第5条第1項第4号の2)。定めをしない場合は明示の対象になりません。
退職金の定めは、書面で渡してもらえますか。
書面の交付が必要な事項に、退職手当の定めは含まれていません(施行規則第5条第3項)。ただし明示そのものは必要なので、書面や就業規則で確認してください。
就業規則に退職金の定めは必ず書かれていますか。
退職手当の定めをする会社では、第89条第3号の2の事項を就業規則に書く必要があります。就業規則を作る義務があるのは常時10人以上の労働者を使う会社です。
退職金の定めが無い会社は違法ですか。
確かめた条文は、退職手当の定めを「する場合」の記載事項を決めるもので、定めること自体を義務づけてはいません。定めが無い会社では退職金の額を計算する決まりも無いため、入社前に確認することが大切です。
出典
- 労働基準法 第11条・第15条・第89条・第106条(e-Gov法令検索)。確認日2026-10-15
- 労働基準法施行規則 第5条(e-Gov法令検索)。確認日2026-10-15
- 厚生労働省「令和5年就労条件総合調査 結果の概況」(mhlw.go.jp)。制度の有無の割合は別ページで確認済み