退職金規程の引き下げ(就業規則の不利益変更)の条件

会社が退職金の規程を引き下げるとき、社員の同意は必要か。労働契約法第9条・第10条の条文と、厚生労働省の解説で確認します。

結論:同意なしの引き下げは原則できず、周知と合理性を満たす場合だけ例外

労働契約法第9条は、使用者は労働者と合意することなく、就業規則を変更して労働者の不利益に労働条件を変更することはできない、と定めています。ただし第10条の場合は例外です。第10条は、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ変更が合理的なものであるときは、労働条件は変更後の就業規則によるとしています(e-Gov法令検索、確認日 2026-10-14)。退職金規程も就業規則の一部なので、この2つの条文で考えます。

条文で見る、引き下げが有効になる3つの道筋

道筋根拠要件
社員との合意労働契約法 第8条労働者と使用者の合意があれば、労働条件を変更できる
就業規則の変更で合意なしに変更労働契約法 第10条変更後の就業規則を周知し、変更が合理的であること(合理性の判断要素は下の節)
どちらも満たさない労働契約法 第9条同意なしに就業規則を変更して不利益に変更することはできない

第10条には但し書きがあります。労働契約で、就業規則の変更によっては変更されない労働条件として労働者と使用者が合意していた部分は、法第12条に当たる場合を除き、就業規則の変更では変わりません。

第10条の「合理的」かどうかの判断要素

第10条は、次の4つの事情に照らして判断すると定めています。

厚生労働省「労働契約法のあらまし」によると、この条文は、第四銀行事件の最高裁判決(平成9年2月28日)が示した考慮要素など、確立した判例法理に沿って規定したもので、判例法理に変更を加えるものではないとされています。退職金を下げる場合は、下がる額の大きさ(不利益の程度)と、会社に引き下げざるを得ない事情があるか(変更の必要性)が主な論点です。結論は個別の事情で変わるため、このページでは金額の基準は示しません。

署名した同意書の効力:山梨県民信用組合事件

同じ「あらまし」は、第8条(合意による変更)の参考として、山梨県民信用組合事件の最高裁判決(平成28年2月19日)を挙げています。この判決は、就業規則に定められた賃金や退職金に関する労働条件の変更に対する同意の有無を、次の観点から判断するとしています。

そのうえで、自由な意思に基づいてされたと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するかを見る、という考え方です。書面に署名した事実だけで同意が認められるとは限りません。

引き下げの通知を受けたときの確認の順番

  1. 変更前後の退職金規程を入手し、何がどれだけ下がるか(算定式・支給率・勤続年数の扱い)を、自分の勤続年数で計算して比べる。算定式の読み方は退職金規程の読み方で確認できます。
  2. 変更後の規程が、周知されているか(いつでも見られる状態か)を確認する。
  3. 同意書や承諾書への署名を求められたら、署名する前に、不利益の内容と理由の説明を書面で受け取る。
  4. 納得できないときは、弁護士または労働基準監督署の総合労働相談コーナーに相談する。

引き下げ後の金額で税引後の手取りがどう変わるかは手取り計算で試算できます。退職金が不支給や減額になる別の場面は懲戒解雇と退職金の不支給・減額、会社が倒産したときの扱いは退職金の保全措置で整理しています。

よくある質問

会社は退職金規程を、社員の同意なしに引き下げられますか。

原則はできません。労働契約法第9条は、使用者が労働者と合意することなく就業規則を変更して不利益に労働条件を変更することはできない、と定めています。ただし第10条の要件(変更後の規則の周知と、変更の合理性)を満たす場合は、この限りではありません。

引き下げが合理的かどうかは、何で判断されますか。

労働契約法第10条は、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の事情に照らして判断する、と定めています。

引き下げの同意書に署名したら、取り消せませんか。

山梨県民信用組合事件の最高裁判決(平成28年2月19日)は、退職金に関する労働条件の変更への同意の有無は、署名などの行為の有無だけでなく、不利益の内容と程度、行為に至った経緯、事前の情報提供や説明の内容などから、自由な意思に基づくと認めるに足りる合理的な理由が客観的にあるかという観点からも判断する、としています。署名の事実だけで決まるわけではありません。

すでに働いた期間の分の退職金も、引き下げられますか。

この点を直接に定めた条文は、今回確認した労働契約法の条文と厚生労働省の資料には見当たりませんでした。第9条・第10条の判断は個別の事情で決まるため、個別の事案は弁護士または労働基準監督署に確認してください。

労働契約法第8条〜第11条(e-Gov法令検索)と厚生労働省「労働契約法のあらまし」を2026-10-14に確認して作成しています。このページは一般的な制度の説明で、個別の法的判断ではありません。個別の事案は弁護士または労働基準監督署に確認してください。

出典