懲戒解雇と退職金の不支給・減額・返還請求(厚生労働省の裁判例で確認)

退職金が不支給や減額になるのは、どんな場合か。厚生労働省が公開している裁判例の骨子で、判断の基準と実際の例を整理します。

結論:懲戒解雇でも、退職金の全額不支給が認められるのは重大な背信行為がある場合に限られる

厚生労働省の「確かめよう労働条件」の裁判例のページ(退職金不払い)は、退職金を、賃金の後払い的性格、功労報償的性格、生活保障的性格を併せ持つものとしています。そのうえで、一定の事由がある場合に減額や不支給を基準に定めることは認められるが、労働者のそれまでの功績を失わせるほどの重大な背信行為がある場合などに限られる、と整理しています(確認日 2026-10-12)。

退職金が不支給・減額・返還になる場面の比較表

場面裁判例結果判断の理由
懲戒解雇+全額不支給(職務外の非違行為)小田急電鉄(退職金)事件、東京高裁 平成15年12月11日全額不支給は認めず、本来の退職金の3割の支給を認めた職務外の非違行為で全額を不支給にするには、業務上横領に匹敵する強度な背信性が必要とした
退職後に同業他社へ再就職+退職金の半額三晃社事件、最高裁 昭和52年8月9日自己都合退職の半額とする定めは有効退職金に功労報償的な性格があり、合理性のない措置とはいえないとした

どちらも個別の事案への判断です。同じ理由でも、会社の規程や事情が違えば結果が変わります。

不支給・減額の定めと就業規則

小田急電鉄事件:全額不支給は認められず3割を支給

鉄道会社の職員が、痴漢行為で2回逮捕され、執行猶予付きの判決を受けたため、会社は懲戒解雇したうえで退職金規程の不支給条項により退職金を支払いませんでした。東京高裁は、懲戒解雇は有効としました。一方で、退職金は賃金の後払い的な要素が強く、全額を不支給にするには、永年の勤続の功を抹消してしまうほどの重大な不信行為が必要で、職務外の非違行為では業務上横領のような犯罪行為に匹敵する強度な背信性が必要と述べました。本件はそこまでいえないとして全額の不支給は認めず、他方で全額を支給すべき事案とも認め難いとして、3割の支給を認めました。

三晃社事件:同業他社への再就職で退職金が半額

自己都合で退職する社員が、同業他社に就職した場合は就業規則に従って退職金の半額を返還すると約束して、退職金を受け取りました。同業他社に入社したため、会社が半額の返還を求めました。最高裁は、再就職を一定の期間制限すること自体は職業の自由を不当に拘束するものとは認められず、退職金を自己都合退職の半額とする定めも、功労報償的な性格を併せ持つ退職金として合理性がないとはいえないとしました。この定めは、労働基準法第16条(損害賠償予定の禁止)、第24条第1項(全額払いの原則)、民法第90条に違反しないとしています。

公務員の事案は別に扱う

同じ厚生労働省のページには、京都市のバス運転手の懲戒免職と退職手当の全部不支給を扱う最高裁判決(令和7年4月17日)も載っています。これは地方公共団体の職員の事案で、管理者の裁量の範囲かどうかが判断されたものです。このサイトは民間企業の従業員を対象にしているため、この判決の内容は民間企業にそのまま当てはまるとは扱いません。

自分の退職金がどうなるか確認する順番

  1. 就業規則・退職金規程で、不支給・減額・返還の条項があるかを確認する。
  2. 解雇の理由が、条項に書かれた事由に当たるかを確認する。
  3. 支給が争いになりそうなときは、弁護士または労働基準監督署に相談する。

退職金の額そのものの違いは自己都合と会社都合の差、退職理由ごとの税の違いは退職理由別の比較で確認できます。請求できる期間は退職金の支払時期と時効にまとめています。

退職金の請求権が債権者に差し押さえられる場合の範囲は退職金は差し押さえられるかのページで整理しています。

よくある質問

懲戒解雇になると、退職金は必ずもらえなくなりますか。

必ずではありません。厚生労働省は、不支給や減額を退職金の基準に定めること自体は認められるものの、労働者のそれまでの功績を失わせるほどの重大な背信行為がある場合などに限られる、と整理しています。

退職金の不支給や減額は、就業規則に書いてなくてもできますか。

退職手当を定める場合、決定・計算・支払の方法などは就業規則に記載する事項です(労働基準法第89条第3号の2)。不支給や減額の条件も、退職金の基準に定めておくことが前提になります。

全額不支給が認められなかった例はありますか。

小田急電鉄(退職金)事件の東京高裁判決(平成15年12月11日)は、職務外の痴漢行為で懲戒解雇された職員について、全額不支給は認めず、本来の退職金の3割の支給を認めました。

退職後に、受け取った退職金の返還を求められることはありますか。

三晃社事件の最高裁判決(昭和52年8月9日)は、同業他社への再就職をしたら退職金を自己都合退職の半額とする定めを、有効としました。条件は会社の規程の内容で決まるため、個別の事案は弁護士や労働基準監督署に確認してください。

厚生労働省「確かめよう労働条件」裁判例(退職金不払い)と労働基準法第11条・第89条を2026-10-12に確認して作成しています。このページは一般的な制度の説明で、個別の法的判断ではありません。個別の事案は弁護士または労働基準監督署に確認してください。

出典