3つの再編で労働契約の引き継ぎ方が違う
合併・会社分割・事業譲渡は、どれも勤務先が変わることがありますが、労働契約の引き継ぎ方は異なります。退職金の扱いを考える前に、まず自分の場合がどれに当たるかを会社の通知で確かめます。
| 再編の種類 | 労働契約の引き継ぎ | 本人の同意・異議 | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 合併 | 包括承継のため、労働契約はそのまま維持され、合併先の会社に承継される | 承諾は不要 | 厚生労働省の事業譲渡等指針の概要、会社法第750条 |
| 会社分割 | 分割契約の定めと、本人が主として従事する事業かどうかで決まる | 書面で異議を申し出られる場合がある | 会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律第3条から第5条 |
| 事業譲渡 | 特定承継のため、承継される労働者の個別の承諾が必要 | 承諾が条件 | 民法第625条第1項、事業譲渡等指針 |
会社分割は「主として従事」かどうかで異議の効果が逆になる
- 承継される事業に主として従事する労働者で、分割契約に承継する定めがある場合は、分割の効力が生じた日に承継されます(第3条)。
- 同じく主として従事する労働者で、承継する定めがない場合は、書面で異議を申し出ると承継されます(第4条)。異議の期限日を定めるときは、通知の日との間に少なくとも13日間を置くことが分割会社に求められています。
- その他の労働者は、承継する定めがあっても、書面で異議を申し出ると承継されません(第5条)。
どちらに当たるかは、会社から届く通知で確認します。個別の事情で判断が分かれる場合は、労働局や弁護士などへ確認してください。
事業譲渡は承諾の前に説明を受ける
厚生労働省の事業譲渡等指針は、譲渡する会社が承諾を得るにあたり、真意による承諾を得られるよう、事業譲渡の全体の状況と、移る先の会社の概要・労働条件(業務の内容、就業場所など)について十分に説明し、協議を行うことが適当としています。退職金の制度がどうなるかも、承諾の前に書面で確かめます。
退職所得控除の勤続年数は、再編で消滅した会社での期間も含めて数える
退職所得控除額は勤続年数で決まります。所得税基本通達30-6は、勤続年数を、退職手当等の支払者のもとで退職の日まで引き続き勤務した期間で計算するとしています。この支払者には、次の会社が含まれます。
| 支払者 | 勤続年数に含まれる会社 |
|---|---|
| 合併後存続する法人、合併で設立された法人 | 合併で消滅した法人 |
| 法人の分割で資産と負債の移転を受けた法人 | 分割で資産と負債の移転を行った法人 |
つまり、合併や会社分割で転籍した人が新しい会社で退職金を受け取るとき、消滅した会社や分割した会社での期間も勤続年数に入ります。勤続年数の一般的な数え方は退職金の勤続年数の数え方、控除額は退職所得控除の早見表で確認できます。
事業譲渡で別の会社に移ると、通算は規程の定め次第
事業譲渡では、移る先の会社は別の会社です。前に勤務した期間などを通算して退職手当等を計算する扱いは、所得税基本通達30-10により、法律や条例、または退職給与規程に、他の者の下で勤務した期間を含めた期間で計算する旨が明らかに定められている場合に限って適用されます。通算されるかは、移る先の会社の退職給与規程の文言で決まります。
通算を含めて計算する場合の勤続年数の数え方は、通達30-11が定めています。前に勤務した期間の一部、または一定の率をかけて換算した期間を含めるときは、その期間を勤続期間に加算して勤続年数を計算します。
転籍の前に退職金を打ち切って支払う場合
再編にあわせて、転籍前の期間に対する退職金を精算して支払う会社があります。国税庁の通達30-2は、新たに退職給与規程を制定したり従来の規程を改正したりした場合に、制定・改正前の勤続期間に係る退職手当等として支払われる給与を、退職手当等とする例の一つに挙げています。ただし、合理的な理由による制度の実質的な改変で、精算の必要から支払われるものに限られ、使用人の選択によって支払われるものは当たらないと注記されています。
この場合の勤続年数は、その給与の計算の基礎とされた勤続期間の末日で退職したものとして計算します(通達30-8)。再編にともなう打切り支給がこの例に当たるかどうかは、支払いの条件によって判断が分かれます。税務署または税理士へ確認してください。制度を廃止して打ち切るときの税の扱いは退職金制度の廃止・打切り支給の所得区分で整理しています。
グループ会社への出向や、合意による転籍の場合は、出向・転籍のときの退職金で出向期間の負担と通算の条件を確認できます。
転籍の前に会社へ確認する項目
- 再編の種類(合併・会社分割・事業譲渡のどれか)と、効力が生じる日。
- 移る先の退職給与規程で、前の会社での期間が通算されるか。
- 前の会社の退職金を、転籍時に支払うのか、移る先から退職時にまとめて支払うのか。
- 転籍時に支払う場合、その支払いが退職手当等として扱われる条件を満たすか。
よくある質問
合併のとき、従業員の労働契約はどうなりますか。
合併は包括承継のため、承継される労働者の労働契約はそのまま維持され、合併先の会社に承継されます(厚生労働省の事業譲渡等指針の概要)。吸収合併では、存続する会社が効力発生日に消滅する会社の権利義務を承継します(会社法第750条第1項)。
会社分割のとき、自分の労働契約は新しい会社に移りますか。
承継される事業に主として従事する労働者は、分割契約に承継する定めがあれば分割の効力が生じた日に承継されます。定めがない場合は、書面で異議を申し出れば承継されます。それ以外の労働者は、承継する定めがあっても、書面で異議を申し出れば承継されません(会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律第3条から第5条)。
事業譲渡のときは、転籍に同意しなければいけませんか。
事業譲渡は特定承継のため、労働契約の承継には承継される労働者の個別の承諾が必要です。民法第625条第1項は、使用者が労働者の承諾を得なければ権利を第三者に譲り渡せないと定めています。
合併や会社分割のあと、退職金の勤続年数は引き継がれますか。
退職所得控除額の計算では、合併後存続する法人や合併で設立された法人の勤続年数は、合併で消滅した法人での期間を含めて数えます。分割で資産と負債の移転を受けた法人の場合も、分割した法人での期間を含めます(国税庁・所得税基本通達30-6)。
事業譲渡で別の会社に移ったとき、前の会社の期間は通算されますか。
前に勤務した期間を通算する計算は、法律や条例、または退職給与規程に、他の者の下で勤務した期間を含めて退職手当等を計算する旨が明らかに定められている場合に限って適用されます(国税庁・所得税基本通達30-10)。通算の有無は、移った先の退職給与規程で確認してください。
出典
- 厚生労働省「事業譲渡又は合併を行うに当たって会社等が留意すべき事項に関する指針」の概要(mhlw.go.jp)
- 会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律 第3条から第5条(e-Gov法令検索)
- 会社法 第750条(e-Gov法令検索)
- 国税庁 所得税基本通達 第30条関係(30-2、30-6、30-8、30-10、30-11)(nta.go.jp)